人生は余計なことでできている。
半は効率的な事が好きです。
効率アップ、二度手間の軽減、あらゆる有効活用、2way3way、
反して、繰り返す無駄、時間の無駄、努力の無駄
こう言ったことに、必要以上にイライラしてしまう事があります。
これには良い一面も悪い一面もあるのですが、そんな半が、無駄な事は悪い事って言う訳じゃないなぁと思った話をしようと思います。
芝居からかけ離れていますが、半の目線で物語を楽しんでもらえれば幸いです。
★ ★ ★
昨日のことである。
ここ数か月気になる出来物があった。できては潰れてまた出てくる。その繰り返しだった。いわゆるニキビだ。若かりし頃はこんなもので悩む事は無かったのに・・。
昨日はこの出来物と、ついに本格的向き合おうと皮膚科を訪れた。
会社が終わって、西船橋駅近くの皮膚科に向かう。
夜は20時までの営業だ。
働きマンにとって貴重な土曜日を使うよりは、平日にできることは平日に済ませてしまいたい。明日のこともあるが、天秤にかければ答えは簡単だ。
家につき、着替えを済ませ、診察券とお薬手帳を確認した。
家から西船橋駅に向かうには自転車が早い。
自転車をこぎこぎ、皮膚科の近くの駐輪場に自転車を置く。
駐輪場の料金を確認した。ここはお買い物スーパーの利用者と併用の自転車置き場だ。
1時間無料。1時間以上のご利用のお客様4時間100円。
なんてリーズナブルなんだ。
駅前にしては破格ではないか。
そんなことを考えていると病院についた。
診察券をを出し、待合席に座ると、一日の疲れが体に残っているのを感じる。
明日も仕事か・・。しかもまだ月曜日だ。
早めに帰って、早く夕飯を済ませたい。
まだ、一週間は始まったばかりなのだ。
ニキビ・・こんな事で病院を訪れるのも気が引けたが、行った甲斐があった。
2種類の抗菌剤と予防剤の薬をもらい、長いこと気に病んでいたブツと、これで真っ向勝負を仕掛けられるのだ。
やはり、市販の化粧水などとは異なる。
ふふっ。私は新たな武器を手に入れた勇者のように、自分の勝利を確信していた。
駐輪場に向かうと、煌々と光りを発する店があった。
時計を見ると19時半。おなかが空くころだ。
コンビニ弁当とは違う手作りが売りの弁当屋が嗅覚をも誘惑する。私は弁当屋の明かりに吸い寄せられるように自動扉の中に進んでいった。
ボリュームある作り置きのお弁当に、大きなスプーンで量り売りされる総菜。
注文してから作られる弁当まで置いてある。
家には家人が仕事をしながら私同様、おなかを空かせている。
あぁ、早く帰りたい。
これを買ってすぐにご飯を食べて片づけをして明日の準備をして、帰るまでのシュミレーションが脳内で繰り広げられる。
「1940円です。」
え・・あっ
私は財布の中身を見て唖然とした。
そうだ、先ほど2本の薬剤を購入し千円札と小銭を綺麗に使い、残り一枚のお札しか無いのをを確認していた。
いくら小銭をみてもきれいに100円すらないじゃないか。
し、しまった・・は、恥ずかしい・・・でも、言わない分けにはいかない・・・・。
「すみません、手持ちがないので、おろしてきていいですか?」
幸いお店の人は、よくあることなのか笑顔を崩さないでいてくれた。
私は取り繕うように、あたかも急いで戻ってくることをアプローチしているかのように続けて「一番近いところのATMって?」と尋ねた。
女性店員は可愛く「一番近いところでまっすぐ行ったところにコンビニがありますよ」と案内してくれた。
店員さんは可愛かった。
20歳そこそこの女の子だ。もしかしたら男性が恋をするのはこんな瞬間なのかもしれない・・・と青春漫画のような設定を考えながら、早歩きでコンビニに向かった。
ところがATMで、自分の順番になってきて、私はどんどん焦り始めた。
あれ・・・あれ・・・いつもあるはずのものが・・・ない・・・。
私は財布のポケットをすべて確認した。
ない・・ない・・・
ポイントカードの類はいつも通りのポケットにきちんと収まっている。
しかし、どこにも紛れていない。
ポイントカード、クレジットカードはあるものの、肝心の銀行のカードがない。
頭の奥で、「焦るな。焦るな。焦ったところで答えは同じだ。」と響いてきた。
思い返せば先週の土曜日、入金関係の整理をするため、ATMに立ち寄っている。
その際に、通帳のほうに挟み込んだ・・・。
「あ・・ぁぁ」
小さな断末魔が漏れ出てくる。
落ち着け、こうなればどうしようもない。
予備で置いている隠し金や使い忘れのお金がないか財布の中、カバンの中、衣類のポケットの中をまさぐる。
こういう時、無いときは無いのだ・・・。
あぁ。かわいらしいお姉さん店員さんにまた恥ずかしいことを言わないといけない・・。
急速で店を後にした時とは打って変わって、どんよりした足取りで店に戻った。
こうなれば最後のあがきをするしかない。
「あの・・・ここではカード払いはできますか?」
思い切ってきいてみた。
決して、ただ食いをしようとしていたわけではないんだ。
あるんだ。購入意思もお金もあるんだ。
ただ、現金がない・・それだけなんだ・・・。
そう思いながら、願掛けをするかのように美人お姉さん店員にきいてみた。
お姉さんは申し訳なさそうに「WAONしか取り扱いがないんですが・・・」と言ってくれた。
WAON!
そういえば、ずっと使っていなかったチャージ式のwaonカードが財布にあるのを確認済みだ!
ただし、いくら入っているかは・・・。
祈る思いで残金を確認してみる。
ここで、一つ言っておこう。私のついていない日は、こんなものではない。
これはまだ中盤なのだ。
「ワオン!」カードが鳴いた。
残金450円
死んだ。
恥死にだ。
逃げられるものなら、逃げたい!
いたたまれないっ!
恥ずかしくて、今すぐ布団をかぶって引きこもりになりたい!人生の中で何度目かの引きこもり人生を熱望した。
私はそそくさと一品をひきさげ、
「これで、清算お願いします。」と残りの1000円札をだし1450円内に収まるように支払いを希望した。
疲れた・・・。
早く帰りたい。
おなかも空いた。
ここで買えなかったとしても、家には何かしらお腹を満たすものはあるのだ。
家人の分だけでも買えたとして良しとしよう。
「1000円チャージでよろしいですか」
バイトであろう女性店員さんは、やはりかわいらしく自分の娘が大きくなってバイトをするなら、こんな時間まで仕事をしているんだろうか・・偉いなぁ・・とまた私の妄想する癖が出てきた。
「はい」
なんとなく一抹の不安がよぎったが、私にその判断能力はすでに、そぎ落とされていたのだ。
どっと疲れたこの1時間、やっと帰れると思いながら駐輪場についた。
あ、100円。
駐輪場の精算機を慌てて確認した。
電子画面に表示された角ばった文字が「100円」の文字を表している。
100円!
100円!
100円!
ない!
もう無いのは分かっている。でももう一度探さずにはいられなかった。
なぜ、さっき1000円札をチャージにしてしまったんだっ!?
現金払いにすれば、100円程の残金は残っていたはず・・。なのに・・っ。
駐輪場で支払いができなければ、自転車を使えない。
使えないと言う事はつまり、歩くかバスを使うかの二者択一だ。
残された希望はバスだが・・。
25分、いや30分以上のタイムロス。
このまま歩いていけば、先ほどのシュミレーションどころか、私の体は疲れきって、すぐに寝てしまいたくなるだろう。
あぁ、清算機が憎らしい!
あと数分前に自転車を出して入れば1時間以内なら無料だった。
自転車なら重い荷物も気にすることはない。何しろ、私の愛車は電動自転車なのだ。
しかし、時間を過ぎてしまった以上、支払い義務は発生する。
どうにもこうにも自転車を引っ張り出すわけにはいかない。
あと100円が、たった100円が手元にあれば・・。
1円を笑うものは1円に泣くと言うが、今、私ほど100円に泣かされている人はいるのだろうか!?
あぁ、100円も持っていない30代の女は、今こ時、どれだけいるんだろう・・・。人類の数パーセント?日本人なら何パーセント?同士がいるなら、今このどうしようもない瞬間を分かち合いたい!と思ったのもつかの間、スマフォを取り家人に即効電話をした。
ピッポッパッ
「迎えに来てください」
「えぇ、飲んじゃったよぉ」
ほっ、ほろ酔いかよっ!!
こうなれば自分で蒔いた種だ。自力で帰るしかない!腹はくくった!
このまま歩きかバスだ。
おそらく買った弁当は冷めるだろう。だが私は帰る。家に帰る!
I GO HOME!!
線路を超えた向こうにあるバスターミナルに向かいながら、自分のICカードのチャージ残高を思い出していた。
期待してはいけない。。。
この前柏に行ったときに、ちらりと見た表示金額に、「あぁ、次はチャージしないとね」と思ったのを記憶している。
念のため、残高を改札前の機械に通して確認してみる。
89円。
ふっ。やっぱりな。
我ながら、こうまでしてお金が無いとは。。
いや、分かっている。私にはこういう時がある。
いくら気を付けようが、ついていない事がことごとくぶつかり、醜態をさらす。1年に数回訪れる、とんでもなくついていない日。
それが今日だったのだ。
今回は夜の一時間ほどに凝縮されただけじゃないか。
人生は無駄がいっぱいだ。
多めに買ってしまった食材。
可愛いと思って買ったのに、着る機会がなかった洋服。
近道だと思って入って行って迷う裏道。
こんなことは山ほどあるじゃないか。どうしようもないときはあるんだ。
どうしようもない事をどうしようもあるようにするのが人間の知恵だが、どうしようもない事を前提に踏まえるのも人間の知恵じゃなかろうか。
あることないことがその辺に転がっていて躓く奴と、上手く跨いで歩いていた奴に、どれだけの差がある?
よけて歩いたやつが、すべて良い人生なんて誰が決めた?
躓いたときに、見える景色があるじゃないか。躓いて悪態をついて、不幸を言葉にし、自らも周りも不愉快にさせる連続なら、無駄な躓きがあるのは当たり前だと思えば、自分が不幸せなんて思わなくたっていいじゃないか・・・。
だいたい無駄なことをしてしまってイラッとしてしまうのは、いったい何のためなんだ・・。
せめて、せめて、転んだ後に周りや自分を不幸にしない奴の方が、人生楽しいんじゃ無いか・・。
当たり前のことが当たり前に起こった、それだけじゃ無いか・・。
私は家という目的地に向かって歩き始めていた。長い夜になりそうだ。
仕方ない。
そう言う時だってある。
それもまた人生だ。
あまり夜中に出ない半は、昼間と様子が違う西船の町のライトのまぶしさを感じながら、コンクリの黒と横断歩道の白い線を見ていた。
その瞬間、車体の上に光るものを乗せた黒光りの車が通り過ぎた。
タ、タクシー!
その手があった。
タクシーならカード払いができる。
クレジットカードは確認済みだ。念のため乗車する前に確認しよう。いや、最悪の最悪、家に帰れば現金もある。
なんとかなる!
半の中に一部の光が差した。
家まで25分。このまま荷物を抱え疲れた足取りになれば30分以上かかるかもしれないと思うと
正直、ぞっとしていた。
遅くなったが今から家に帰ってお腹も満たされれば明日も頑張れる。
しかし、タクシー乗り場に向かっていると、やはり体が重いのを感じる。
この一連で一気に疲れていた。
タクシーの運転手さんは陽気だった。
快活なしゃべり口調に、こちらも乗せられる。
病院に行きたかっただけなのに、遅くなってしまったことを、思わずしゃべってしまった。
運転手さんは「女性と子供には優しいんですよ」と飴を二つくれ最後に明日から台風みたいですから、お気をつけて」と心配りの言葉をそえてくれた。
私は、やっと家に帰れた。
一夜明け、目が覚めると、外は土砂降り強風雨だった。
ふっ。
とりあえず会社に行くか。
自転車はどうするかな・・。