dbd-hans-collection101のブログ

さぁ、世界をつくろう。 人生には刺激が必要だ。 dbd-hans-collection略してdbdの半のブログ。ほぼ一人で立案から創作完了まで行う芝居何でも屋。そんな芝居人、半が感じたアレコレを書き綴って参ります。

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ショートストーリー「マジシャン」

どうもdbd半です。

皆様暑いですね。
今、半は物書きモードのようです。

そして、伝えたいことが湧いてきました。
昨日に引き続きストーリーでお届けします。


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「マジシャン」   2017/07/21  dbd 半

 

 

そこに立っていたのはシルクハットをかぶった変な男だった。

彼は自分のことをこう紹介した。
「私はマジシャン」


変な奴だった。
何をするわけでもなく突然現れたかと思うと私のそばをつかず離れずにいた。
時々、おしゃべりもしたけど、大した話はなかった。ただ、細い目で口元はいつも笑っていた。

マジシャンなんて言うけどすごいテクニックなんて一つもなかった。

私は奴に、「マジシャンなんて言うくらいなら、手品の一つも見せてよ」と言うと、
百均にでも売っていそうなステッキを使って、自然には絶対ありえない色の花らしきものを出した。

「そんなの誰でもできるわ」と言ってステッキを取り上げ同じようにステッキを振り回してみた。
仕組みはいかにも単純で、左手を前に出して意識をそっちに向かせている間に右手のステッキをぐるりと回転させる。
遠心力がかかり重心が端に傾けばステッキの中に仕込まれた花が飛び出す、子もでもできる玩具だ。
のはずだった。なのに、出ない。
何度も振り回し、ステッキの中を覗き込んだが、仕込まれた花は出てこなかった。
私はぶっきらぼうに
「こんなの誰も喜ばねーし」
と、悪態をついた。
マジシャンなんて怪しすぎるし、こいつ自体うさん臭すぎる。
やっぱり、近づきすぎるのはやめた。
変な奴はどこにでもいる。そういうやつには近づかないのが身のためだ。

 

しばらくして一週間で一番嫌な曜日がまたきた。
こんな日はなくていいのに。
どうして、毎週毎週この曜日は来るんだろう。
水曜日は母との面会日だ。

母と言っても、私はこの人を母とは思っていない。
私を憎んでいる人だ。
母は父に捨てられ、だんだん父に似てくる私を心底憎んでいる。
私はいつも父の代わりをやらされる。
「あんたのためにすべて捨てたのに」「私を裏切った、この裏切り者」と罵られた。
もちろん周りには見えないように。
どうして、国はこんな日を設けるんだろう。
これに、何の意味があるんだろう。

母は時に手を挙げることもあったけれど、大きくなった私にはさほど痛みを感じなくなっていた。

帰り際、私はいつも通り良い子を演じる。
「母さん、またね。元気にすごしてね」

当然ながら、そんなことは微塵も思っていない。
手続きを済ませ、いつも通り、施設を後にした。

私はバス停に行き、自販機でジュースを買った。ここは山奥でバスは1時間に一本程度。
バスを待つのは私しかいなかった。
自販機の光に集まる蛾がひどく鬱陶しかった。
私は無自覚に自販機に蹴りまくっていた。バンバンという音だけが心地よく響いた。

理由なんてない。ただそうしたかっただけだ。目の前に蛾がいて鬱陶しかった。それだけだった。
きっと犯罪をおかす人間は私みたいな人間なのだろう。
私は頭のどこかで、自分はおかしいことを自覚している。犯罪者は何かの拍子に一瞬で線が切れて、ところ構わなくなっただけの話だろう。
だが私はまだ人の目を気にするし、めんどくさい事は嫌いだ。
でも、「今はまだ」というだけなんだろう。きっと私は、変なんだ。

自販機は私の足より固いからそれほどのダメージはないように思えた。取り出し口のふたははひび割れて一部粉々になって、ちょうどロゴのあたりに大きな凹みができた。それを見て私はよくわからない優越感みたいなものを感じた。
足の脛の方にが痛みが走った。取り出し口のひび割れたところが私の皮膚を裂いたのだ。
痛い。そう私はまだ痛みを感じられる。
この痛みを感じなくなった先には、私はきっと向こう側に行ってしまう。
いや、その時はきっとこの痛みが快感になるだろう。
私の体はそれを予感していた。


傷口を拭き、血の付いたハンカチをしまい、身なりを整え直してバスの時刻表に目をやった。
するとその奥に自称マジシャンの姿が見えた。


そうだった。こいつがいたんだった。


でも、こいつは何もしない。ただいるだけだ。
こいつに見られていようが、誰もこんな奴の話なんて耳を傾けないだろうし、私のこれからに何の支障もない。


もう一度見直す。奴は変わらずこっちを見ていた。
無視をすればよかった。
それなのに、やつの口が気になった。

いつものシルクハットに笑ったように細い目だ、でも口元はいつものように笑っていなかった。
そしてずっとこっちを見ている。

「なんだよっ」

私は今までに発したことがなくらいドスをきかせた声で、言い放った。

やつは、少しずつ距離を縮めてきた。


「なんだよぉっ!きもいんだよっ!お前なんかに見られても何にもないんだよぉッ」

やつはさらに近づいてくる。


「はっ、なんだよ、あぁ、お説教か?それともあきれてんのか?かっこわりぃとか思ってんだろ。
お前なんかに、なんか言われる筋合いなんてないんだよ!」

やつは黙っていた。

「あぁ、そうか同情ってやつか。そうそ、俺ってかわいそうな奴なんだよ。
親からは虐げられて、だれも助けてくれない。行き場のない憤りだよ。
だから仕方ないだろう。自販機なんてなんだよ。別に生き物殺してるわけじゃないだろう。
物損だとか言うなら、あとで弁償すれば良いんだろう。思春期なんだよ。
こうでもしないとどこにもウサを晴らすとこなんて無かったんだよ。
かわいそうだろ。だから、こんなのなんて大したことないんだって」


それでもやつは何も言わなかった。


私は苛立ちを覚えていった。
「なに、ずっと黙ってんだよ。なんか言えよ!!」

奴との距離はもう一歩位しかなかった。
そして奴はこういった。

 

 

 

「君を助けてもいい?」

 

 

 


身震いがした。
なに言ってるんだ。助けてもらう?何に?何から?あの母親からか?
いい子ちゃんを求める世間からか?こんな風にした世の中からか?
足元から震えがきた。何をされる?怖い。どうしたらいい?
奴が手を伸ばしてきたが、私は一歩も動けなくなっていた。
こんな奴に私を助けられるわけがない。何も知らないくせに。何も知らないくせに。何も知らないくせに。


奴は、両手を広げて、私をぎゅうっと抱きしめた。
もがいてもあがいても、蹴りを入れてもその腕はほどけなかった。
なんなんだ。何してやがるんだ。やめろッやめろッ。

私はできうる限りの力を振り絞って奴の腕を振りほどこうとした。
けれど、何をやってもダメだった。こいつ、ただ見てただけで腕だってこんなに細いのに、どうしても抜け出せれない。

 

初めての感触だった。
足掻きながら、人の腕の中で、人の体温を初めて感じた。
こんなに人はあたたかいのか?
こんな風に包まれても良いのか?
安心してもいいのか?
他人にゆだねてもいいのか?
私は一人じゃないのか?

 

「俺は・・・俺は・・・」


奴は何も言わなかった。
ただ、どんなに暴れてもダメで、そのうち私は周り目も気にせずに咽び泣いていた。


頭の中でぐるぐると昔のことがよみがえってきた。
何度も殴られて、それでも母と呼ぶ人に縋り付いたこと。
誰かに助けてもらいたくて、裸足で家を飛び出して、でも誰にも何も言えずに家に帰って、また殴られたこと。
悩みなんてなさそうに笑う同級生たちの顔。
いい子だねぇと無責任に言ってくるおばはんたち。
鏡を見る度に会ったことのない父親のことを考えて吐きそうになったこと。
他人は信用しないと何度も呪文のように繰り返し言ったこと。
自販機を蹴りながら「俺って、かっこわりぃ」って本当はずっと思っていたこと。

 

本当はいつも思っていた。


誰か、ここから連れ出してください。
誰か、安心して眠らせてください。
誰か、私を受け入れてください。
誰か、私を一人にしないでください。


私は、これ以上行きたくない。

 

これ以上、感じない人間になりたくない。
このままいけば、俺はきっと生きているものを殺しても感じなくなる。
そんな人間になりたいわけじゃないんだ。
本当は上っ面じゃない、心から笑いたいんだ。本当は・・本当は・・・

 

 

 


私を・・助けて・・・

・・・・・誰か、私を・・・

 


          ・・・・助けてください。
                ・・・止めてくれ。

 

 

 

 


自分の体温と奴との体温が同じくらいになっていく。
心がほどけていくのを感じた。

 

 

 


俺が落ち着きを取り戻し始めると、軽く押しただけで腕は離れた。
あのとんでもない力は何だったんだ。
奴は、小さく「イッツマジック」と言い放った。
目は細くて、今まで見てきた通りの口元に戻っていた。

「お前、、、何もんだよ」
私は呆然とした頭でまだ整理のつかないまま聞いた。

「私はマジシャン。君を助ける魔法をかけにきたマジシャンだよ」

 

 

自称マジシャンはそれからすぐに消えた。
どうやら次の仕事が見つかったらしい。
やつのシルクハットとあの細い目と笑う口を見ないですむなら、こっちはせいせいする。

出発する前に、また会うことがあるのか聞いてみると、
やつはいつも以上ににっこりと笑って見せただけだった。

 

 

 

あれから数年経った今でも、私はあのぬくもりが体のどこかにあるのを感じている。

私は向こう側に行かずに済んだ。

怪我をすれば痛みを感じる。誰かを傷つければ悲しくなる。
誰かが泣いていれば、助けたくなる。声をかけたくなる。

そして今は、泣き方も忘れた子には私のマジックを見せたくなるんだ。
シルクハットをかぶり変な花の出るステッキを持って。

 

さぁ、最高の魔法をかけよう。
自称マジシャンがお送りする、最高の贈り物。

 

 

今度は君に届けよう。


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ニュースを見ると、悲しい事件が多いです。
その人の苦しさはその人しかわからない苦しさです。


私はお芝居を通して、メッセージを届けたいと思っています。
それは、「生きる事の楽しさ」です。

劇場でする演劇はすぐにはできません。
でも演劇は見せ方や演出次第で不可能を可能にします。
要は、なんでも有りなんです。

今現在、先が見えなくて、暗闇の中にいる人もいるでしょう。
自分の力じゃどうしようもなくって、苦しんでいる人もいるでしょう。

私に何かができるはずもありません。
私にすごい力があるわけでもありません。
このマジシャンも何のマジックもできません。


出来るのは、だれでもできる事だけです。
私は苦しんでる人に何もできないけど、
マジシャンを通して、誰かをぎゅうっと抱きしめたくなったのです。


ただ、ぎゅうっとするだけです。
誰かに私の温度を伝えたくなったのです。
ただ、ぎゅうっと、するだけです。


そして一つご提案です。
もし読者様が身近に愛おしい存在があるのに
伝え方が分からない方がいらっしゃれば何も言わず抱きしめてあげてください。

それで問題が解決することは、とても少ないでしょう。
でも心が近ければ、しないよりも伝わりやすくなると思うんです。


簡単にできないですけどね(^^)


どうか、一つでも悲しい出来事が起こらなくなりますように。
負は負の連鎖を起こします。
でも逆だって起こせるはずです。
正の連鎖。私はそれを信じたいと思います。

マジシャンには誰だってなれます。
最高の魔法をかけられる最高のマジシャン。

どうか、悲しい事件が無くなりますように。
どうか、悲しい心が救われますように。

祈りを込めて。